リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 (2023年) 116分【ネタバレ・考察】一流モデルが何故戦場カメラマンになったのか。とにかく逞しい1人の女性について描かれた名作。身をすり減らしながらも決して立ち止まらない。まるでヒーロー映画のようだった。

リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界

ネタバレ無し感想

映画としてのクオリティが非常に高く、社会的意義も感じる素晴らしい作品でした。 重い内容ですが、リー・ミラーの勇ましさのお陰でそこまで心が沈まずに観ていられました。
逞し過ぎて笑えてきてしまうところもありました。
命知らず過ぎて好きです。

セリフは少なめで表情で語るシーンが多く、惹き込まれます。
本作はリー・ミラーの人生のごくごく一部を切り取ってダイジェストにしたかのような印象でした。

圧倒的な説得力

もっとじっくり描いて欲しいと思いました。
かなり物語は駆け足のため、映画では尺が足りないと感じました。

しかし、ケイト・ウィンスレットの演技力が凄過ぎて、リー・ミラーの存在に説得力が凄まじいです。

どれほど演じる人物への解像度が高いんだ。
とにかく演技が素晴らしかったです。
そして最適人じゃないでしょうか。
ケイト・ウィンスレットの他にこの役は務まらないと思うほど的役でした。

この限られた映画の尺で可能な限りリー・ミラーを表現していたと思います。

事前情報はあった方がいい映画

パワフルなケイト・ウィンスレットの演技に魅了されますが、物語は駆け足に進んでいく印象だったので、ところどころ置いてけぼりになりかけます。
事前情報あった方が楽しめる映画だと思いました。

私は町山智浩の映画紹介を聴いてから本作に興味が湧き、フライヤーを読んでから視聴しました。
普段のように何も事前情報を入れずに観ていたら彼女の凄味を取りこぼしていたと思います。

基本情報

Lee
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界
2023年 116分

リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界

キャッチコピー『あの日 ヒトラーの浴室を記録した報道写真家がいた』
製作国 : イギリス
日本公開 : 2025年5月9日
カナダ(トロント国際映画祭):2023年9月9日
イギリス:2024年9月13日
興行収入 : 2460万ドル
ジャンル:戦争 / ドラマ / 歴史

あらすじ

「傷にはいろいろある。見える傷だけじゃない」 1938年フランス、リー・ミラー(ケイト・ウィンスレット)は、芸術家や詩人の親友たち──ソランジュ・ダヤン(マリオン・コティヤール)やヌーシュ・エリュアール(ノエミ・メルラン)らと休暇を過ごしている時に芸術家でアートディーラーのローランド・ペンローズ(アレクサンダー・スカルスガルド)と出会い、瞬く間に恋に落ちる。だが、ほどなく第二次世界大戦の脅威が迫り、一夜にして日常生活のすべてが一変する。写真家としての仕事を得たリーは、アメリカ「LIFE」誌のフォトジャーナリスト兼編集者のデイヴィッド・シャーマン(アンディ・サムバーグ)と出会い、チームを組む。1945年従軍記者兼写真家としてブーヘンヴァルト強制収容所やダッハウ強制収容所など次々とスクープを掴み、ヒトラーが自死した日、ミュンヘンにあるヒトラーのアパートの浴室で戦争の終わりを伝える。だが、それらの光景は、リー自身の心にも深く焼きつき、戦後も長きに渡り彼女を苦しめることとなる。

※参照元:公式サイト


日本版 予告編

英語版 予告編

スタッフ

監督 : エレン・クラス
脚本 : リズ・ハンナ/ジョン・コリー/マリオン・ヒューム
原作 : アントニー・ペンローズ『リー・ミラーの生涯』
製作 : ケイト・ソロモン/ケイト・ウィンスレット/トロイ・ラム/アンドリュー・メイソン/マリー・サヴァレ/ローレン・ハンツ
音楽 : アレクサンドル・デスプラ
配給 : イギリス:スカイシネマ/スタジオカナル
日本:カルチュア・パブリッシャーズ

キャスト

リー・ミラー:ケイト・ウィンスレット
デイヴィッド・E・シャーマン:アンディ・サムバーグ
ローランド・ペンローズ:アレクサンダー・スカルスガルド
ソランジュ・ダヤン:マリオン・コティヤール
ジャーナリスト:ジョシュ・オコナー
オードリー・ウィザーズ:アンドレア・ライズボロー
ヌーシュ・エリュアール:ノエミ・メルラン

アワード

  • 2024年ウィメンズ・イン・フィルム賞:ケイト・ウィンスレット/エレン・クラス

ポスター/パッケージ

おせっかい情報

見る際の注意

直接的な描写はありませんが性被害のトラウマがある方は注意。
少しグロいです。

こんな人におすすめ

史実に基づいた話が好き。

この作品が好きな人が好きそうな映画

※完全な偏見です。


 

⚠️ネタバレ有レビュー⚠️

気がついたら没入している

リー・ミラーの視点で描かれるため、情報がまとまっておらず、ものすごく混沌としている印象でした。
戦況も戦場も何がどうなっているのかわからないという中で、彼女はどんどんと進んでいきます。

ためらいも恐怖も感じません。
とにかく目の前のものを撮る使命を担っているかのようでした。

何が彼女をここまで掻き立てるのだろうと興味惹かれながら観ていました。

勇ましくて笑っちゃう

キッパリ啖呵切るのかっこいい。笑

『Asshole!』
『Cut it off!』

もう強すぎて笑っちゃいました。
最前線に行くわよって肩をパン!って叩くところとか。

女だからと散々差別されますが「んなこと知るか」とズンズンと前に進んでいきます。
こんな逞しい人、好きにならずにはいられないでしょう

理解者

彼女の圧倒的なパワフルさにパートナーも従軍記者も協力してくれます。
素晴らしい。感動的。
あの時代に彼女の行動を批判せずに共に歩んでいた彼らはフェミニストでしょう。勝手に認定。

パートナーと再会して、速攻セックスし始めるのには笑った。
これぐらい活力があるからこその彼女よね。

酒飲まないとやってられない

お酒が印象的でした。
友人と再会した後、ショックで泥酔する彼女、写真を一面に並べて酒を飲む彼女。
酒で痛みを紛らわしてまでも私がやらなかったら誰がやるの!?という凄味をずっと感じながら観ていました。

もはやヒーロー映画

自分の身を擦り減らしながら誰もが目を背けたくなる現実を後世に残した彼女は、もはや英雄ではないかと思えてきます。
しかも戦場カメラマンを終えた後は専業主婦となったと。
何やってもできちゃう人だったんだろうなと思います。
カッコ良すぎる。

名声でも名誉でもない

名誉や名声のために動いているという感じがしませんでした。
もう本当に居ても立っても居られなかったという感じ。

序盤では、モデルをしており、自分が何をしたいのかわからないというような台詞を言っていました。
戦場カメラマンという仕事は、自分の役割を見つけたという印象で、深く考える前にもう身体が勝手に動いているようでした。

ラストで彼女をここまでの行動力に駆り立てた理由が判明します。

耐えられない

近くにこんな惨状があって、居ても立っても居られないという状況でしょうか。
もついい加減にしろよっていうのはどこかリンカーンを思い出しました。
近くで苦しんでいる人がいる状況が、生理的に耐えられないというような気持ちになります。

同じ女として救いたい

本作は女性主人公ならではの描写が数多くあります。

広場で丸刈りにされた女性とリーが見つめ合うシーンは特に印象的でした。
言葉にならない感情です。
救えるなら救ってあげたいけどできることは撮って世間に訴えかけるだけ。

無力さや怒りを感じました。

怒り

写真を並べて酒とタバコを吸って怒りに満ちた表情をしていました。
この現実が許せないんだけど誰を恨んだらいいのかわからないといった感情でしょうか。

それで写真も掲載されないとなったらどうしたらいいのかやり場のない感情で我を失ってしまいますね。

なぜ写真を撮るのか

終盤で彼女を駆り立てる理由も判明します。

幼少期に強姦され、母親に打ち明けたら『誰にも言うな』と口止めされたと言っていました。
傷物になった娘を恥じていた母親だったそうです。

この時、ケイト・ウィンスレットの目が泣きはらしたかのように浮腫んでいました。

悔しくてやり場がない

載らないなら意味がないと言って自分の撮った写真をバラバラにするシーンではどうも言葉にできない気持ちになりました。
何ヶ月も風呂にも入らず車に乗って移動して、命の危険をも顧みずに撮影した写真たち。

悔しくて許せない、そんな中で雑誌に載らない=誰の目にも届かない。
なんの役にも立たないと思ったら自暴自棄になってしまうのでしょうね。

編集者はずっとリーの味方

国民の不安を煽ってしまうために今は掲載できないとのことでした。
しかし、アメリカに送って掲載を頼み込んでおり、できることをやっていたという印象でした。
リーも編集者も切実でした。
苦肉の策でした。そして必死でした。

ラストも素晴らしい

ラストに一捻り加えるところも素晴らしかったです。
インタビュアーかと思っていた男性が実は息子だったという。

本作は、息子さんが屋根裏部屋で見つけた写真により母親の凄さを知ったそうで、母親は生前、この話を全くしなかったそうです。

『母親の人生の邪魔をしたんじゃないかと思ってる』と言っていましたが、自分が産まれたことで母親のキャリアを潰してしまったんじゃないかと言うことでしょうか。

初めて切った髪の毛や初めて読んだ絵本を保管しているところで心が救われました。

ドラマにして欲しい

映画の尺では足りない印象でした。
かなり矢継ぎ早に物語が進んでいくので、ダイジェストのようでした。
ドラマでじっくり観たいと思うような作品でした。

いずれにしても素晴らしい映画でした。

関連情報

本作を制作するにあたってのケイト・ウィンスレットの戦い

本作は2015年10月に公式発表され、ウィンスレットがミラー役で主演することが決まっていた。
本作の原作はリー・ミラーの息子、アントニー・ペンローズが執筆したもので、彼は映画を支援し、映画の制作にあたり、資料や日記、さらには未発表の作品を提供し、全面協力した。
ケイト・ウィンスレットはこの映画のプロデューサーも務めた。脚本家の選定、資金調達やキャスティングも担当した。

ケイト・ウィンスレットは、映画の資金調達に苦労していた際、男性幹部から見下されたと語った。
「自分が彼らの助けを求めている、必要としていると思っている男性は、信じられないほど腹立たしい。ある監督からは『いいか、私の映画に出てくれれば、お前の大したことない映画のために資金を調達してやる』なんて言われたこともあった。」
「あるいは、潜在的な男性投資家から『どうして私がこの女性を好きにならなきゃいけないんだ?』なんて言われたこともあった」とウィンスレットはヴォーグ誌に語った。
資金不足のため、ウィンスレットは2週間分の賃金を自腹で支払った。

リー・ミラー Lee Miller

リー・ミラー 本人の写真

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Lee_Miller

1907年4月23日- 1977年7月21日 (70歳没)

家庭環境

  • 父親:セオドア・ミラー。ドイツ系
  • 母親:フローレンス・ミラー。スコットランドとアイルランド系
  • 弟:エリック・ミラー
  • 兄:ジョニー・ミラー(飛行家)

ざっくり経歴

  • リーは7歳の時、友人宅に滞在していた際にレイプされ、淋病に感染した。
  • リーの父親は子供たちに写真を教えていた。
  • 18歳でパリに渡り、照明、衣装、デザインの勉強をした。
  • 1927年3月15日号のヴォーグ誌の表紙に登場、ニューヨークで人気モデルとなった。
  • 1929年、ミラーは画家であり写真家でもあるマン・レイに弟子入りするためパリへ旅立った。彼とは愛人関係にあった。
  • 1933年、ミラーの生涯で唯一の個展を開催した。
  • 第二次世界大戦が勃発すると、ペンローズと共にロンドンへ移り住んだ。
  • ミラーはヴォーグ誌の公式戦場カメラマンとしてフォトジャーナリズムの新たなキャリアに乗り出した。
  • アメリカのフォトジャーナリストでライフ誌特派員のデイビッド・E・シャーマンとチームを組み、パリ解放、アルザスの戦い、ブーヘンヴァルトとダッハウのナチス強制収容所の恐怖など、多くの任務を遂行した。
  • 浴槽の写真は1945年4月30日の夕方に撮影された。ミラーは浴槽で入浴し、その後ヒトラーのベッドで眠った。偶然にもヒトラーが自殺した日と同じ日であった。
  • イギリスに帰国後、リーは重度のうつ病に悩まされたが、息子は心的外傷後ストレス障害(PTSD)だと考えている。リーの息子は1985年の伝記『リー・ミラーの生涯』の中で、彼女のアルコール依存症とそこからの回復についても書いている。
  • 自身の戦場カメラマンとしての活動は息子には一切話すことなく亡くなった。
    彼女の死後、息子が屋根裏から無数の写真を見つけ、本作の製作に至った。

情報参照元
リー・ミラー – Wikipedia
Lee_Miller – Wikipedia

試写会にて行われたトークショー

試写会のトークショーがYoutubeに上げられています。
実際の戦場カメラマンの渡辺陽一さんが登壇されており非常に有意義なトークショーなのではないでしょうか。

余談

参考情報

コメント

タイトルとURLをコピーしました