ミステリアス・スキン (2004年) 99分【ネタバレ・考察】少年たちのトラウマを繊細に描き、追体験させて観客の心に傷を残す名作。リアルでヒリヒリする人物描写。有名俳優の若手時代の名演技が見られる。その辺のホラーよりよっぽどトラウマになる映画。

ミステリアス・スキン

ネタバレ無し感想

私はショック過ぎてエンドロールで思考停止して茫然としていました。
本作は強烈に心に傷が残る映画です。
表情も人物描写も説得力が凄過ぎて、ヒリヒリと痛い映画でした。

しかもこの映画、10年以上前に何かで観たことがあった気がするんですよね。
当時もかなり衝撃を受けた気がするのですが、内容はほぼ忘れていました。
それでもタイトルだけは忘れなかった映画です。
今回、再視聴して納得しました。
観た後に心に傷を負う映画です。

この映画、人物描写と俳優の演技力と演出が上手すぎて、観客にもトラウマを追体験させます。
私は本作に出てくるような、類似する体験は全く受けたことがない上、女で異性愛者なのですが、かなりダメージを受けました。
本当に心にブラックホールができるような映画でした。

基本情報

Mysterious Skin
ミステリアス・スキン
2004年 99分

ミステリアス・スキン

キャッチコピー『僕たちが壊れた、8歳の夏』
製作国 : アメリカ/オランダ
日本公開 : 2025年4月25日
イタリア(ヴェネツィア国際映画祭):2004年9月3日
アメリカ:2005年5月6日
オランダ:2005年5月25日
製作費 : 1000万ドル
興行収入 : 210万ドル
ジャンル:スリラー / ドラマ

あらすじ

カンザス州の田舎町ハッチンソン。1981年の夏、リトルリーグのチームメイトである8歳の少年ブライアン(ブラディ・コーベット)とニール(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、常習的に幼い子供への性加害を行なっていた一人の<コーチ>によって大きく人生を狂わされる。精神的なショックから自分の身に起きたことを忘れてしまったブライアンは、やがて宇宙人に誘拐されたために記憶を失ったのだと思い込むように。一方、<コーチ>と8歳の自分の間にあったものは「愛」だと信じるニールは、彼の影を追い求めて年上の男たちを相手に体を売りながら生きていく道を選んだ。「空白の記憶」から10年、ブライアンが真実を取り戻そうとするうち、手がかりとして浮かび上がってきたのは繰り返し夢に現れる一人の少年。そして、その少年がニールであることをついに突き止めたブライアンだったが……。

※参照元:公式サイト


日本版 予告編

英語版 予告編

スタッフ

監督 : グレッグ・アラキ
脚本 : グレッグ・アラキ
原作 : スコット・ヘイム「謎めいた肌」
製作 : グレッグ・アラキ
音楽 : ハロルド・バッド/ロビン・ガスリー
配給 : イギリス:タータンフィルムズ
アメリカ:TLAリリーシング
オランダ:1More Film
日本:SUNDAE©️

キャスト

ニール・マコーミック:ジョセフ・ゴードン=レヴィット(少年期:チェイス・エリソン)
ブライアン・ラッキー:ブラディ・コーベット(少年期:ジョージ・ウェブスター)
ウェンディ:ミシェル・トラッチェンバーグ/(少女)Riley McGuire
エリック・プレストン:ジェフリー・リコン
Avalyn Friesen:メアリー・リン・ライスカブ
エレン・マコーミック:エリザベス・シュー
コーチ:ビル・セイジ

アワード

  • 2004年ベルゲン映画祭:最優秀作品賞
  • 2005年シアトル国際映画祭:ゴールデン・スペース・ニードル賞/最優秀監督賞/最優秀男優賞
  • 2005年ロッテルダム国際映画祭:Moviezone賞
  • 2005年ブリスベン国際映画祭:インターフェイス賞
  • 2005年ヴィレッジ・ヴォイス映画投票:第6位
  • 2005年ゴッサム・インディペンデント映画賞:ブレイクスルー俳優賞
  • 2006年ポリッシュドアップルアワード:最優秀映画賞
  • 2006年アイスランドクィア映画祭:最優秀フィクション作品賞

ポスター/パッケージ

 
 
 
 
 
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おせっかい情報

見る際の注意

性被害のトラウマがある方はご注意ください。
ちょっと血が出るシーンあります。

こんな人におすすめ

人物描写がリアルで繊細な作品が好き。

※完全な偏見です。


 

ミステリアス・スキン

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⚠️ネタバレ有レビュー⚠️

直接的な描写は一切なし

演じた子役がトラウマになってしまっては困るからということで、子役になんのシーンを撮っているのか伝えずに撮影をしたそうです。
それであの演技は天才過ぎる。演技指導が天才過ぎる。

本作では、子供時代の直接的な性被害の描写がないにも関わらず、ものすごくキツイです。
悪魔のいけにえ理論がここで活かされてしまっています。
見せない方が想像力が働いて残酷な印象になるというやつです。

ジョセフ・ゴードン=レヴィットの演技力

ジョセフ・ゴードン=レヴィットの演技力が凄すぎます。
掴みどころがなく、何をやってもそつなくこなせてカリスマ性があり、目は死んでいるものの、細やかな優しさを持っている妖艶な青年を魅力的に演じていたと思います。

このキャラクター、複雑過ぎるのですがお見事です。

実際の性被害者が加害者を演じている

コーチ

https://film-grab.com/2011/04/20/mysterious-skin/

観た後にパンフレットを読んだらさらに心が深く沈みました。
卑劣な性犯罪者である野球コーチを演じていたビル・セージは、過去に性犯罪を受けたことがあると2024年のインタビューで語っています。

”家庭がうまくいかず途方に暮れていたとき、教師であり既婚者で、周囲の人間に尊敬されている男と知り合い、本作のような経験をした”

とのことです。
性被害を受けたあと、何年もその男に精神的に支配されている感覚があったそうです。

The enduring relevance and heartache of Mysterious Skin

実際の血肉で作られた映画

性犯罪者がどんなものなのか知っている性被害者が演じるという点はリアリティを追求する点においては最善かもしれません。
しかし、自分にトラウマを残した張本人を演じるというのはものすごく残酷に感じてしまいました。

出演シーンは非常に少ないものの、とてつもない存在感を残したコーチは、実際の”怪物”を知っている俳優が演じているからこその説得力なんだと思います。

性犯罪者は砂糖を装う

コーチとニール

https://film-grab.com/2011/04/20/mysterious-skin/

本作で子供たちを歪ませた性犯罪者であるコーチですが、一見すると典型的ないい人に見えます。

きっと親の視点だと良いコーチだったんでしょう。
子供を迎えにいけない親の代わりに無償で子供を預かり、お菓子やゲームで楽しませて送ってくれるわけですから。

心の拠り所

コーチはニールにとって心の拠り所でした。

最も印象的なシリアルが降ってくるシーンですが、きっとニールにとって、こんなに楽しい経験は過去になかったんでしょう。
母親が買ってくれないシリアルを、コーチは遊びで無駄にしてくれるわけです。

今までにないほど、自己肯定感に満たされたんじゃないでしょうか。
ニールが心を許し、無邪気で子供らしくいられた直後、卑劣な性犯罪が行われます。
この展開が残酷で見ていられませんでした。

セリフで『ブラックホール』という風に表現されていましたが、文字通り心が闇に落とされました。

性自認としても心の拠り所

ニールは元々、男性に興味がありました。
母親と母親の恋人がセックスをするのをみて、オナニーをしていました。
男の方を見て抜いていたし、コーチもそもそもタイプだったみたいですね。

アメリカの田舎でLGBTQなんて言葉もない時代に、自分が男性に性的興味を抱くということを、コーチの前では表に出せるというのも彼からしたらコーチに依存してしまう要因になっていたように思います。

歪んだブラックホール

コーチに注がれた愛情や自分を必要としてくれる精神的な充足感を求めている様でした。
母親の愛情不足によって作られた心の隙間に、コーチの歪んだ性愛が注がれてしまい、ブラックホールが生まれてしまいました。

そして青年になっても、ニールはコーチを恨んでいませんでした。
愛情不足な幼少期を送っていた彼にとって、幸福だった記憶に違いないのでしょう。
恨めたらいいのに、彼は憎んだり怒ったりしません。

実の親に問題あり

出ました、女であることを捨てられない母親。
シングルマザーで恋愛体質のため、ネグレクト気味になっていたが、息子には愛情があり、直接的に虐待はしていないという感じでした。

母親は男とお外でセックスをするくらい、性に奔放だったみたいですね。
野良猫じゃん。
若くして妊娠して男に逃げられたんじゃないかと邪推してしまいます。

野球チームに入れられた理由も母親が男と会うためでした。
この時点で利用されてんじゃん。
そしてニールはそれを察することができる賢い子であるのがまた悲しいです。

器用な子

ニール

https://film-grab.com/2011/04/20/mysterious-skin/

野球のアナウンスはきっちりこなしていました。
役割を与えられてイキイキとしているように見えました。

絶対に人に言えないこと

ニールはハロウィンの日に明らかに自分より年上の男の子を人気のないところに連れて行きイジメをしていました。

口に花火を咥えさせ、顔に怪我を負わせていました。
口が結構裂けていたので一生残るのではないでしょうか。

しかしニールは口止めとして、その少年にフェラチオをした様です。
自分が受けた性被害を誰にも言えないことと認識しており、それを利用して自分も性加害者側になってしまっていました。

人を大切にできる子

ニールの生活は荒れていたものの、周囲の人間に危害を与える様な行動はしていませんでした。
男娼をしていましたが、お客さんに対しても悪意を向けたり、悪さをすることはありませんでした。

ライターはある?と聞かれて、泥酔しているのにライターを渡してあげていたところが印象に残ってます。
母親の恋バナの相手をしてあげたり、自分もしんどいであろうトラウマの話をしてあげたり、自分より人を優先する子の印象でした。

多分相当差別を受けてた

相当な田舎ですよね。
ホモムーブをすると銃を装填して脅されるくらいなので、相当差別をされていただろうし、ほぼ全員とヤッタと言っていたので、周知の事実なんでしょう。

母親、機能しない

息子がゲイなのはわかるでしょう。
今度職場のイタリア人とデートするかもじゃねーよ。

この母親、バカすぎてそして誰もいなくなったを思い出しました。
マザーの母親も思い出しました。

女でい続けてもらって構いませんが、もっとちゃんと息子と向き合ってくれ。

コンドームすら知らなかった

NYでパトリック・ベイトマンみたいな男に買われていました。
そこでコンドームの使い方がわからないという描写がありました。

性知識がマジでないのか。
本当にこの子にちゃんと向き合っていた大人もいなかったんですね。
そして初めてアナルセックスをしたかのようなシーンでした。
なんか怖いです。危うすぎて心配すぎます。

皮膚病の人の背中を触る

あれは梅毒ですか?
背中に触れた後、離れたところでオナニーをして見せてお金をもらったとのことでした。
恐らく性病なのでしょう。
今まで抱いたことのない気持ちになったと言っていましたが、ここは分かりませんでした。

『もっと、もっと私を幸せにしてくれ』

という老人の渇きと自分の愛情への渇きが重なったんでしょうか。

段階的に悪化

NYでウェンディと同棲を初めますが、男娼を続けます。
最初は荒々しいものの、ニールに害はない男性でした。
2人目は性病はあるものの、ニールに害はない男性でした。

そしてウェンディが心配して仕事を見つけてきてあげました。
サンドイッチ屋で最低賃金で働くことになりました。

しかし、バイトの帰りに男に声をかけられ、売春に行ってしまいます。
ここまでくるともう異常です。
売春依存症みたいに見えました。
3人目の男は最悪で、ドラッグを吸い、暴力を振るいニールを捨てます。
胸糞悪すぎるシーンでした。

それでも帰る

母親がクリスマスに帰ってこれるように航空券を買ってあげていました。
前日に酷い暴行を受けましたが、『空港で強盗に遭った』と嘘をついて家に帰っていました。

脚本が秀逸

NYでニールが売春をするたびに相手の男が怪しくてハラハラしました。
そして実家に帰る前日に暴行に遭っていました。
帰れるのかハラハラしました。
ブライアンと会えるのか、どうなるのか展開が読めなくて没入して観ていました。

被害者が加害者に加担

あのトラウマについて詳細を説明しているシーンは本当に辛いシーンでした。
ニールは被害者ですがコーチの性加害に加担してしまっていました。

子供の未熟さに漬け込まれて利用されたニールが、ブライアンを気遣いながら事実を淡々と話すシーンは辛かったです。
二重に残酷です。

対照的な2人

ニールはコーチからの性愛を追い求めるかのように男娼をしていましたが、一方でブライアンは記憶を失う形で自分を保っていました。

解離性健忘ですね。
思い出してしまうと精神が崩壊してしまうほど衝撃的なトラウマだったということですね。
私も経験があります。名称こそ知らないものの、割と経験がある人は多いと思います。

父親が機能しない

ブライアンが性被害に遭った理由は母親が野球場に迎えに来なかったのがキッカケでした。
そしてその時期、父親は行方不明だったそうです。

ブライアンの母親は少し過干渉気味だったりするので、父親のネグレクトが間接的な原因のように描かれていました。
ブライアンは何があったのか、記憶がないものの、酔っ払って父親にブチギレていました。

何が起きたのか判明しないモヤモヤ

ブライアンは記憶を失っており、その理由を宇宙人に連れ去られたからだと思っていました。
そのため、宇宙人について調べていたり、自分の夢の記録を取っていたりしました。

ずっと何か掴めそうで掴めないもどかしいシーンがずっと続いていました。
判明しないモヤモヤを抱えながら映画を観ていましたが、判明しない方が良かったと思う内容でした。

宇宙人に連れ去られていたら良かったのに

腕を肘までアナルに入れて5ドル貰ってたんですね。
地獄過ぎる。しかも子供の腕とはいえマジかよ過ぎる。
コーチが感じているシーンへの嫌悪感が半端じゃなかったです。
気持ち悪過ぎる。

宇宙人に連れ去られていれば良かったのに。

一生付き纏う呪いの始まり

ニールとブライアン

https://film-grab.com/2011/04/20/mysterious-skin/

ブライアンにあの日あった出来事を説明した後、外ではクリスマスの歌が歌われていました。

外と内の対象が凄まじすぎる。

しかも、ソファに座る2人を天井から撮り、カメラがどんどん引いていきます。
相対的に2人が沈んでいくように見えて、気が遠くなっていくようなシーンに感じました。

この対話が終わりなのではなく、気が遠くなる道のりの始まりなんだと思わせるようなエンディングでした。

女の子の謎

女の子は内股に怪我をした跡があり、近所では牛が殺されて性器を切り取られていました。
事件性を感じます。怖いです。
この一件は何だったのか判明しないまま終わります。
不気味で怖いです。彼女はあのあと大丈夫だったんでしょうか。

その他

本作を見たあとどうしても思い出してしまう事件

日本でも大事件となったジャニー喜多川の事件が頭を過りました。

参考情報

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